コーニシュ物語⑦:フライイングレディ(1)

 さて、このパルテノングリル上に鎮座するのが、「フライイングレディ」とも呼ばれるThe spirit of Ecstasy です。これは、1910年頃の自動車雑誌の編集者でもあったジョン•ダグラス•モンタギュー公が、自分の所有するシルバーゴーストにふさわしいマスコットを装着しようと、友人の彫刻家チャールズ•ロビンソン•サイクスに依頼して創作させたもので、モンタギュー公の父の秘書エノレア•ヴェラスコ•ソーントン嬢をモデルとし、ルーブル美術館の

階段踊り場にある、サモトラケのニケ像をイメージしたものです。

 筆者も、パリに行くと必ずルーブル美術館に行くことにしていました。この美術館は広大で、詳しく見て回ったら3日あっても足りないと言われる位ですので、目標を決めています。それは、ナポレオンのお抱え画家、ダビットの通称「ナポレオンの戴冠式」、正式には「1804年12月02日、パリのノートルダム大聖堂での大帝ナポレオン一世の成聖式と皇妃ジョセフィーヌの戴冠式」という、縦6m 横10mの大作に再開する為です。ナポレオンが冠をささげる立場にあるという、その権威を現した絵ですが、中に描かれている400余りの人間達の視線が、ひざまずいて首を前に傾けたジョセフィーヌ頭の上で、まさに冠を授けようとしているナポレオンの手に集中しており、時間を超えてその緊張感が伝わってきます。また、その400余りの人々の視線が、自分にも向けられているような錯覚に陥り、しばらくその絵の前に佇むと、そのパワーをもらったような気持ちになります。

 この展示室は、ルーブル美術館を入って左手奥に行き、1階からサモトラケのニケ像の置いてあるダリュウーの階段の踊り場を通って2階に上がり、人だかりのいる「モナリザ」の絵の展示室を過ぎた奥に「フランス絵画の部屋」としてあります。

 同じ部屋には、ドラクロアの「民衆を率いる自由の女神」(1830年、259㎝×325㎝)や、ジェリコーの「メデュース号の筏」(1819年、491㎝×716㎝)等のドラマティックな大作もあります。特に後者は、国際的スキャンダルであった海軍メデュース号の座礁事件を題材としており、王政復古した政府下における軍指揮官の無能さを、暗に批判しているものとも言われています。ジェリコーは最近起きた悲劇的事件を自ら題材に選び、生き残った15人のうち2人から事情を聴取。147人の乗組員が急ごしらえしたという筏の模型を作り、死体置き場や病院に行き、死人や病人の肌の色や質感を観察して、その上での飢餓、脱水、食人、狂気の様を描いたとされています。

 この作品は、当時の賛美的で平静、秩序を旨とした新古典主義から脱却し、初期ロマン派に分類され、ドラクロアらに影響を及ぼしています。